茶飲み話[120]「平和外交に強い日本政府を希望します」
安倍首相の「爆買いか」「標的になるだけ」などと言われた地上配備型迎撃ミサイル「イージス・アショア」の配備計画は、秋田、山口の地元の反対などで撤回されました。そのとたんに安倍内閣は「国家安全保障戦略」の見直しに着手。河野太郎防衛相は7月8日の衆院安全保障委員会の閉会中審査で、敵のミサイル発射基地を直接攻撃する「敵基地攻撃能力」について保有の是非を検討することを表明しました。自民党内では、「敵基地攻撃能力」を「自衛反撃能力」や「積極的自衛能力」へと言い換えるなどの意見が出ていると言われていますが、「敵基地攻撃能力」は、国連憲章で認められていない先制攻撃であり、「専守防衛」を逸脱するものです。国家安全保障会議では、「敵基地攻撃能力」とともに、「防衛費」を増大させるイージス艦の増隻なども検討されています。
この検討は、北朝鮮や中国の動向が理由とされています。米国のクリントン大統領時代に北朝鮮に侵攻することが模索された1994年、韓国のソウルが火の海になるなど甚大な被害から取り止めになったと言われています。北朝鮮の核・ミサイル技術の向上に対抗して「防衛費」を増大させれば、北朝鮮の自暴自棄の暴走の危機を増幅させる悪循環に陥りかねません。北朝鮮との対話を実現する国際的なシステムを構築する国際政治・外交上の対応が今ほど重要な時はありません。
中国が権益を主張する南シナ海では、中国と米国が相次いで軍事演習を行って 緊張が増しています。海上自衛隊も米空母などと南シナ海からグアムにかけての海空域で実践に即した戦術訓練を行っています。また、尖閣諸島周辺の接続水域では、中国海警局公船が継続的に航行し、日本漁船を追う危険行為を行い、7月上旬には中国政府が日本政府に「釣魚島(尖閣諸島の中国名)周辺の中国領海で日本漁船を創業させないよう管理すべきだ」と求める事態にもなっています。航空自衛隊の中国軍機への緊急発進(スクランブル)も増えて、偶発的な軍事衝突が起きる懸念がぬぐえません。
中国が南シナ海で権益を主張する根拠とする「九段線」について、ハーグの常設国際仲裁裁判所は2016年7月12日、国連海洋法条約にもとづき国際法違反であるとの判決を出しています。「防衛費」を増大させる米国との共同歩調は米中の緊張を高めます。偶発的な衝突回避に向けた日本と中国との対話が必要なことは言うまでもありませんが、東南アジア諸国連合と協力し、中国の覇権を防ぐ国際政治・外交上の対応が今ほど重要な時はありません。
8月は6日(広島)、9日(長崎)の原爆の日、15日の終戦記念日と平和国家への誓いを新たにする月です。国際平和はもちろんのこと、感染症や地球温暖化に対しても国際連合をはじめとする国際機関での協力が求められています。敵基地攻撃能力を検討する日本政府ではなく、核兵器禁止条約を批准し、核兵器廃絶など国際協力を必要する課題で大きな役割を果たす平和外交に強い日本政府を希望します。
退職者連合常任幹事 大山勝也