茶飲み話[132]雑草と・・・

 庭が少しある。
 今年はモクレンから咲き始めた。3月にはクリスマスローズが咲き春がやってきた。チューリップは赤、ピンク、紫、黄色、白や混じったものがたくさん咲いた。そして6月からユリの花、オリエンタルリリーという少し大きめのユリ。140~150センチくらいに伸びた茎から濃赤色の花が一斉に咲き始めた。自分で植えたにもかかわらず色も覚えていなかったので嬉しかった。淡いピンクが咲き、鮮やかな黄色、白地に赤のコントラストが際立つ花色、華やかな桃色が咲き、庭はユリの香りで包まれた。7月には濃いピンクと白いカサブランカが咲き、庭に出るのか楽しかった。
と、ここまでは花がきれいに咲く普通の庭の様子。だが、今は雑草がきれいに広がっている。花を植える前には、土を耕し整地をした。当庭はどちらかというと日本風、聞こえはよいが、あ~何とかしたい!あの日本のハーブといわれる“ドクダミ”!
 塩や熱湯もなんのその、あっという間に広がる。バジルやミントなどのハーブも植え、雑草対策をやってみたが“ドクダミ”に負けている。砂利やマルチシート、タイルも検討してみた。除草剤をまいたら花に影響が出そうでまけない。しかたなく、週末は雑草とり。本当によく育つというか、子どもには「雑草のようにたくましく育ってほしい」というが、それとこれとは別だと思いながら刈る。

 雑草除草方法を調べていたら、『宮中侍従物語(入江相政編)』に昭和天皇の侍従であった田中直という方の随想「吹上御所の四季 雑草とご愛草」という文章のなかに、昭和天皇から「雑草ということはない」とお叱りを受けたと書かれたものをみつけた。

<以下、抜粋>
『吹上御所の四季 雑草とご愛草 』より

 両陛下のお住まいは、皇居内の吹上地区にある。吹上地区は、それほど大きな修理も加えられずに、昔の面影を今にとどめている。
 今から15年近く前の、私が侍従を拝命してからまもなくの出来事。暑かった夏もそろそろ峠を越えて、朝晩ややしのぎやすくなってきた9月初旬のことである。庭園課の係から、「吹上広芝のお庭の草が茂りすぎたので、那須からのお帰りまでに手を入れたいが」との申し込み。私は、さっそく吹上にとんだ。なにしろ那須からのお帰りまでに数日を残すだけだし、広芝の広さもわかっていたから。なるほど、名も知れない野草の薮であり、いたるところに繁茂しているススキは、その一部が建物にまでよりかかっている状態。さっそく係と相談して、建物から10メートルくらいの雑草は全部刈り払ってしまい、特に両陛下のお住まいの裏にあるわれわれ侍従室の前の庭は、全部刈ってしまうように頼んだ。やっと刈り払いも終わり、9月中旬、両陛下は那須からお帰りになった。ところが、吹上からすぐ来るようにとの連絡、陛下からのお召しだという。「どうして庭を刈ったのかね」「雑草が生い茂ってまいりましたので、一部お刈りいたしました」「雑草ということはない」 私は、とっさには陛下のおっしゃった意味がよくわからなかった。「どんな植物でも、みな名前があって、それぞれ自分の好きな場所で生を営んでいる。人間の一方的な考え方でこれを雑草としてきめつけてしまうのはいけない。注意するように」というような内容のお叱りであったと記憶している。その後、陛下のお言葉に雑草ということをお聞きしたことがない。
 「雑草の科学」(沼田真編、研成社)の中に、「雑草は、作物に対する一群の植物のカテゴリーであって、植物学的ないし生物学的概念ではない。人間が自分のために栽培し収穫しようとする作物に対して、作物以外のすべての植物、招かれざる客として作物栽培の場に入り込む植物である。栽培されたもの、まきつけられたものでないという意味では雑草はナチュラルであるが、それは人がつくりだした環境に生ずるという点では、半自然的な植物群落を吹上地区には、招かれざる客として入り込む植物はありえないのである。そういえば、先人たちはうまい言葉を考えた。吹上の植物はすべてご愛草であって、雑草ではないと。なるほど、こよなく自然を愛される陛下にとっては、すべての植物はご愛草なのである。
 
 雑草は確かに一つ一つ名前があり特徴がある。その場所で育っている。よく見れば白い花が咲いていたりする。誰でもがその場所で生きている。自分なりに生きている。みんな等しく生きている。それが一つ一つの個性となれば、その個性を多様性というのかもしれない。お互いにみとめえたらもっと生きやすくなる。今の時代、自分勝手が多すぎる。
 吹上のように広ければ生い茂った雑草にも風情を感じるのかもしれないが、当庭では単なる“カ”の発生する場所にしかならない。私も自然は好きだし、花も好きだ。秋になったらコスモスが揺れて、冬には千両や万両が赤い実をつける、四季を感じられる庭を造りたい。子ども(孫)たちが虫に刺されることなく安心してあそべる庭にしたい。
 だから、私はやはり雑草は刈る!炎天下、私はクラクラしてきた。雑草と折り合いをつけながら、付き合っていくしかないな。これからもよろしく!

退職者連合 副事務局長 大内孝子