茶飲み話[139]実家をたたんでみた

 昨年、2年ほど空き家になっていた実家の売買契約が成立しました。一時はどうなることかと思っていましたので、ほっとしているところです。
 場所はつくば市。かなりの田舎で、つくばエクスプレスからも常磐線からも等しく遠い、なかなかの立地です。200坪あまりの敷地に、築42年の家が一軒建っていました。そこで一人暮らしをしていた母が3年前にうちの近所のサ高住に引っ越してきて、それと同時に今流行りの「実家の空き家問題」が発生しました。

植木屋さんはけっこう楽しかった(・・・あとで考えれば、だけど)

 母が引っ越してきた後、最低1年は建物を維持しておこうと考えていました。だって、いつ帰りたいって言いだすかわかりませんでしょう。その時に「もうお家ないの」って言ったら暴動を起こします。
 実はこの、「維持しておく」というのがけっこう大変でした。木の多い家で、樹高3m~7m程度のものが70本。それ以外に3mクラスのカイズカイブキの生け垣が敷地の周囲50m以上に渡って隆盛を誇っていました。経験のある方にはわかっていただけると思うのですが、これは相当タフな状況です。ちょっと放置すれば直ちにお隣に迷惑をおかけしちゃうし。
 草とか木って、初夏の成長の早い時期だと、軽く剪定を入れたくらいでは2週間で倍返しされます。ひと月もたてばジャングルになっています。 「ラピュタだ・・・」って何度つぶやいたことでしょう。
 ちょっとだけラッキーだったのは、母の引っ越しと僕自身の退職時期が重なったことでした。コロナの流行もあって他に遊びにも行けませんでしたので、東京からせっせと通って植木屋さんをやることに決めました。対人接触ゼロでやれるし。
 まずは道具が大事。チェーンソーは実家にありました。高所作業だとチェーンソーはちょっと(すごく)怖いので、電気のこぎりも買いました。 あと買ったのは剪定用バリカン、刈り払い機、高枝切り、太枝切りなどなど。剪定ばさみは4つほどお釈迦にしました。
 作戦としては、「樹勢を削ぐくらい太いところから切る」ということに決めました。またすぐに生えてこられても対応できないし、何年かのちには更地にすることも想定していましたので、枯れてもいいや!という気合で。実際、枯れちゃった木もあります。
 出てきた大量の枝は細かく切って(・・これが大変!)、レンタルしたトラックに積み込んで、つくば市のクリーンセンターまで何度も運びました。作業着を着て「安全第一」ってプリントしたヘルメットをかぶっていましたので、クリーンセンターの職員さんからは業者さんに間違えられたりして。
 結果的には、週に1、2回ペースで通って、半年くらいでほぼすべての樹木を「丸坊主」状態まで切りました。
でも、率直に言って、樹木にはかわいそうなことをしたものです。毎年たくさん花をつけてくれていた蝋梅を切ったときなど、かなりぐっときました。
 木の寿命は人より長い、というのは、植えるときにはなかなか考えないものなのですね。

家の中の片づけは、どうしてもしみぢみしますね

 並行して、少しずつ家の中の片づけも進めました。業者さんに頼んで一気に、というのも考えたのですが、まあ時間もあることだし自前でやってみよう、ということで。膨大な日用品、物資とゴミがあることはわかっていましたので、「金目のものを見つけたらあげるから」とだまして、孫たちも作業に動員しました。
 ゴミはこれもトラックに積んで、せっせとクリーンセンターへ。かなりホラーなゴミもありました。1980年製造の鳥の頭の水煮缶とか。ドッグフードなのですが、物置の隅に2キロ缶が1ダース、忘れ去られていました。この缶詰誰が開ける?!っていって、一同で譲り合ったりして。
 まだ使えそうな家具とか食器は難物でした。昭和の人間なもので、捨てるのはかなり抵抗があります。当初はフリマなどでさばいていくつもりでしたが、コロナ禍でどこも中止になっていました。メルカリもやってみましたが、「小さくて金目の物」以外はかなりの確率で赤字になります。梱包にもけっこう手間がかかるしそもそも数が多いし、ちょっとやってみて断念しました。
 よく「なんでも引き取ります」みたいな業者さんありますでしょう。ある程度整理がついたところで何社かに連絡してみましたが、家具とか食器とか、結論的には全滅でした。引き取ってくれるのは、いわゆるブランド品的なものとか宝飾品(そんなの無いし)、家具・電化製品は買ってから3年以内・・とか。コロナ禍で中古品の物流が滞っているのも影響していたかもしれません。
 結論的には地上戦を採用し、食器などは地道に人脈をたどってできる限りあちこちにもらっていただきました。友達、友達の友達、知り合いのデイサービス・・などなど。でも、最後はやはり捨てるしかありませんよね。
 ものを捨てるのって、もちろんお金もかかりますが、同時に割と精神的負荷の高い作業です。今回自力でやってみて思ったのは、時間をかけて自分たちでやることで、「お片付け」に対する納得度が上がる、ということでしょうか。実家にあるモノって、少なからず「おもひでの品」だったりしますし。

おかげさまで整理できました

 というわけで、維持管理から片づけに移行して2年余、昨年やっと片づけが終わり、さらに幸いなことにそのまま引き取ってくれる方が見つかって、「赤字」を出さずに整理を終了することができました。
 うちの場合、いくつかのラッキーが重なって何とか自前でやれましたが、率直に言ってすごく大変な作業でした。社会問題になるのもわかります。
 考えてみれば、あと15年か20年たつと、今度は自分の家が同じ問題を起こすことになるんだよ。やばいぞ。(笑)

退職者連合副事務局長 草野 秀一