茶飲み話[140]「旅」のつれづれ

北方領土へのロシアがビザなし交流を停止するとしたこの際、稀有な経験を思い出してみた。

2000年に国後・択捉島での交流を終え帰る日に台風に遭遇した。利用する中型船が退避寄港できる深さの港は北方四島では歯舞諸島にしかない。ロシア側から手続きなしで越境する許可はおりず、沖で待機するように通知(そもそも国後島のロシアには台風の波で出航できる船がなく、越境の手続きができない)。しかし海は6メートルを超える波である。羽田孜さんも同行の旅であり、外務省が交渉にあたるが許可が出ない。いつの間にかロシア側には軍船が、日本側には海上保安庁の船が見え隠れする真ん中を、境界線のロシア側に沿って往復して交渉結果を待つ。ヒヤヒヤ・ドキドキしながら船室に閉じこもり何往復した後、船が急に進路を変え、海上保安庁の船を間に挟むように移動してようやく根室に帰港できた。後で聞いたがロシアが、手続き無しで越境することを初めて黙認する交渉ができたようであった。

何とも融通の利かないロシアの地方官僚の対応にいら立ちを覚える貴重な経験ではあったが、北方領土交流も相手に都合よく利用され、いまだに不法占拠されていることに怒りや、進まない交渉にいら立ちを感じている。

九州では、「肥薩おれんじ鉄道」の旅である。第三セクターではあるがJR九州には水戸岡鋭治氏などを代表にユニークなデザインの車両やサービスがあり楽しめる。

鹿児島県の出水駅から熊本県の八代駅まで2時間の旅で、八代海に沿い、対岸に天草を望んでいる。車両は2両でモーニングサービスのついた企画列車だ。愚妻と2人で乗車したが他にお客はいない。乗務員に聞くと、終点まで私たちだけのようであった。運転手を含めて乗務員7名、カウンターには飲み物と焼き立てのパンが積まれている。乗車した車両は八代駅からの戻りでは予約があり、貸し切り料金は30万円と聞いた。同じサービスを我々2人で8,000円だった。不知火湾や田原坂、日奈久など名所では停車し、下車観光することも許された。途中の駅では同社の社長以下総務のスタッフが、オレンジの法被を着、出迎えられた時には、さすがに恐縮してしまった。赤字路線の廃線が言われているが、生活や観光に必要な対策と生活の両面の対応を期待したい。

我々のOB・OG会の役員会で富山県の八尾に出向いた。有名な「越中おわら風の盆」で、おわら節の胡弓の音色が町中に流れる。小学校の校庭に舞台が設置され、町内ごとの踊り手の演技を鑑賞する。ゆっくりした踊りのため、男性の動きは中腰や片足立ちなど見た目とは異なり過酷と思われる。我々の活動にはこうした交流が必要と思う。コロナ禍も3年近くになるが人が集まり、喧々諤々の議論を行い、決めたら行動する。形は変わるかもしれないが、前を向いた活動が再開でき、さらに新たな経験を深めたいと思う。

退職者連合幹事 田村 雅宣(UAゼンセンIKI・IKIライフクラブ)