茶飲み話[111]

 「実るほど頭を垂れる稲穂かな」―。人は学問や徳が深まるにつれ謙虚になるというのが本意で、小人物ほど尊大に振る舞うという反語も含意している。詠み人不詳の俳句ともいわれるが、座右の銘にしているご仁も多いようだ。しかし、この人にはこの言葉の本意は全く当たらない。安倍晋三総理大臣、その人である▼桜を見る会は、歴代総理大臣が「各界において功績、功労のあった方々を招き、日頃の労苦を慰労すること」を目的に毎年4月、新宿御苑で開催されてきた公式行事である。招待者は2012年頃までは、8000人から1万人。茶飲みっ子がその栄に浴した2006年、第3次小泉内閣の時も1万人ほどであった▼ところが、第2次安倍内閣の2013年から毎年1000人程度ずつ増え続け、本年は1万8000人。安倍総理は会の目的とは無関係に、自身の選挙区の支援者を850人もバスツアー参加させていた。その中には私人であるはずの昭恵夫人の招待者も・・・▼また、あの高級ホテルで行われた安倍後援会主催の前夜祭には、5000円会費で800人ほどが参加したという。一人当たり5000円で賄いきれたとは信じ難いが、後援会や事務所に収支はなく、「領収書を発行しておらず、受け取りもない」という▼今年は自民党関係者の招待枠6000人、総理枠1000人など。それとは別に、2016年からは改選期を迎える自民党参議院議員にも招待枠が与えられていた。結果、予算は毎年1766万円で変わらないのに、支出額は2014年の3005万円から今年は5518万円超と大きく膨らんでいる▼政府は招待者名簿などを「廃棄した」として詳細を明らかにしない。その構図は公文書の改ざんや廃棄が明るみに出た森友問題や加計問題などと同様、またもや「総理の嘘」と「政府高官の忖度」で、様々な疑惑を覆い隠そうと躍起である▼そんななか、安倍総理は11月20日、通算在職日数の歴代最長を更新した。それは、互いに小さな違いを強調し力合わせをせず、「実るほど頭もたげる総理かな」―、そんな尊大ぶりを許している弱小野党の「貢献の賜物」と言えよう。(良穂)[2019/11/25]