茶飲み話[86]
ケネディ宇宙センターから打ち上げられた一隻の宇宙船が、4人の宇宙飛行士を乗せた長い宇宙飛行を続け、地球への帰還を目指していた。船長のテイラーは、船内時間が1972年7月14日、地球時間が2673年3月23日であることを確認し、地球では西暦2673年頃になっているはずだと語りながら、睡眠薬を自ら注射して冬眠状態に入った▼どれだけの時間が過ぎていったか…。突如発生した宇宙船のトラブルで、船はとある惑星の湖上へと不時着水した。そこは猿が言葉を話し、人間を奴隷として支配する奇妙な世界だった。チンパンジーのコーネリアスとジーラの手を借りて、何とかこの世界から脱出しようとするテイラーは、やがて絶望的な真実を知る▼1968年に制作されたアメリカ映画「猿の惑星」の第1作のあらすじである。連日報道されるハロウインの、東京・渋谷での仮装した若者たちの騒動をテレビで見ていて、50年も前のそんな映画を思い出した。これは単なる娯楽物語ではない。原作はフランスのピエール・ブールという作家で、黒人差別や核戦争危機などに警鐘をならす思いを込めて1963年に書き上げたFSだという▼仮装した若者たちの傍若無人な振る舞いや、スマホ片手に大股を広げて優先席に座っている最近の若者たちの姿をみれば、日本人はついに霊長類の頂点の座を捨てて、他のサル目(霊長類)にその座を譲りつつあるのかもしれないとさえ思ってしまう▼もとより文化・文明に限っていうなら、まだまだチンパンジーやオランウータンの追随を許してはいない。しかし、ヒトとしての知性に欠け、弱い者へのいたわりの心を持たず、物事の判断基準の中心には常に自分しかない「ヒトらしからぬ人」がやたらに多くなったようだ▼過剰・過激なコマーシャリズムに日本人の心が麻痺させられたのだと説く者もあれば、権利だけを強調しすぎた戦後教育のせいだと力説するご仁もいる。似て非なるものを「もどき」という。姿かたちは人であっても、人としての知性や心を持たないそれらは、さしづめ「ヒトもどき」とでもいうのだろうか。日本が「猿の惑星」ならぬ「サルの列島」になる日も近い・・・。(良穂)[2018/10/31]