茶飲み話[51]

 良くいえば「機を見るに敏」、悪く言うなら「悪乗り上手」。これが安倍総理の政治手法である。一昨年の国会では、中国船の領海侵犯をテコに集団自衛権行使容認を強行。今度は北朝鮮の核実験をめぐってアメリカと北朝鮮の軋轢が高まり朝鮮半島情勢が険しくなったとみるや、わが国の護衛艦によるアメリカ艦船護衛の実績づくりをさりげなく行い、その一方で憲法改正へのボルテージを上げている▼5月3日、憲法改正をめざす市民らの集会に寄せた安倍総理のビデオメッセージ。「東京オリンピックが開催される2020年の新憲法施行を目標に、改定項目として第9条1項と2項を残しつつ、3項に自衛隊を明文(化)すべきという考え方は議論に値する」と述べている。そして新憲法には「高等教育の無償化も盛り込むべき」だともいう▼憲法第9条の1項は「戦争放棄」、2項は「戦力の不保持」と「交戦権の不認」である。安倍総理は「国民の生命と財産を命がけで守ってくれている自衛隊が憲法上認知されていないのは不自然」だという。しかし第9条2項の「戦力の不保持」と「交戦権の不認」をそのままに、戦力としての自衛隊を明文化することは明らかな矛盾である。また「高等教育の無償化」は、かつて民主党政権が実現をめざしたが、自民党の反対で実現できなかった施策である▼安倍総理は、朝鮮半島情勢の成り行きと日本国内に及ぼす影響を心配する国民の心理を巧みについて、一気呵成に改憲への道筋をつけようとしているのだろう。そのためには世論の抵抗感を薄め、次の段階で「矛盾する部分」を削除する腹積もりに違いない▼もう一つ、改憲発言のボルテージを高めている背景には、共謀罪問題への議論の集中をかわし、政官あげて情報を隠している森友学園への国有地格安売却と、それに絡む総理夫人の直接・間接の関わりへの関心を逸らすなど、後半国会での議論を分散させる狙いがあるようだ。悪乗り上手な安倍総理の目論みははっきりしている。術中にはまらないようにしなければ・・・。(良穂)[2017/05/08]