茶飲み話[43]

 「保護なめんなよ」「我々は正義だ」「不当な利益を得るために我々をだまそうとするならば、あえて言おうカスであると」―。暴力団員の啖呵でもなければチンピラの捨て台詞でもない。小田原市の「生活保護悪撲滅チーム」とやらが、こうした内容を英語書きしたジャンパーを着用して生活保護受給家庭などを訪問していた▼10年ほど前、保護を打ち切られた男に、市の職員がカッターナイフで切りつけられたことから、「不正受給を許さない連帯意識向上」のために作ったという。マスコミ報道を受けて小田原市の市長は、「配慮を欠いた不適切な行為であり、許されるものではない」とお詫びのコメントを発表したが、こうした文言が書かれていたのはジャンパーだけではなかった。ボールペンやマグカップ、携帯ストラップやシャツなど8つの関連物品を製作していたことが判明した▼もともと市の担当者たちの頭の中には、「生活保護受給者は社会の落ちこぼれ」という差別意識が潜んではいなかったか。雇用・労働法制が緩和・改悪され、不安定雇用と低賃金労働者が激増し、貧富の格差が拡大しているなかで、「保護費を支給してやる」といった「お上意識」がありはしなかったか。これは単に小田原市だけの問題ではない。報道に接して、なぜか少年のころに読んだ島崎藤村の「破戒」を思い出した▼『被差別村出身の青年・瀬川丑松は、素性を隠せという父親の戒めを守りつつ学校教師になった。しかし、自分の出自を隠さなければ生きていけない社会の不合理に煩悶する。「我は穢多(エタ)なり」と、素性を明かして偏見や差別と闘っていた先輩の猪子蓮太郎が、やがて非業の死を遂げる。それをきっかけに丑松は、生徒たちの前で告白するが、周りの人びとから猜疑の目で見られるようになったことなどから恋人とも別れ、新天地を求めてテキサスに旅立っていく』―。▼昨年度の生活保護受給者は163万5000世帯214万5000人。65歳以上が半数を超えており、受給者はここ10年、毎年記録更新し続けている。貧困は間違いなく政治の責任である。といっても、お上意識の役人や政治家に、日々の暮らしが「破戒」ならぬ「破壊」されて苦しむ人びとの気持など、所詮、分かりはしないか。(良穂)[2017/02/10]