茶飲み話[58]
♪村の渡しの船頭さんは/今年60のお爺さん/年をとってもお舟を漕ぐときは/元気いっぱい艪がしなる/それギッチラ ギッチラ ギッチラコ~。70歳以上の人なら、だれもが子供のころにオルガン伴奏でうたった経験があるに違いない。童謡「船頭さん」である▼1941年(昭和16年)に発表されたが、太平洋戦争突入直前であったことから、当初の歌詞には「60のお爺さんですら村のために、お国のために、一生懸命働いているのだから、君たちも早く立派な人間になってお国のために尽くしなさい」というメッセージが込められていたという。戦後になって歌詞の一部が改作され、歌い継がれた▼たしかに、戦後10年を経た昭和30年(1955年)頃の日本人の平均寿命は、男63歳、女67歳で、60歳といえば“りっぱな”お爺さんであり、お婆さんであったろう。しかし今では男81歳、女87歳で、100歳以上のお年寄りも67,824人もいる。この間に、サラリーマンの定年年齢も50歳代から60歳代前半に引き上げられ、65歳以上の高齢者は、総人口の4分の1に達している▼長寿は人類にとって永遠の願望であろう。戦後の日本は生活水準の目覚しい向上と、誰でも適切な医療や介護を受けることができるようになったこと、公的年金保険による所得保障が高齢期の生活を支え、長寿の生活をある程度可能にしたことは事実である▼しかしいま、安倍政権による方向違いの政策運営が、年金、医療、介護を柱とする社会保障制度を限りなく先細りさせ、雇用・労働法制を回復できないほどに劣化させている。そんなこんなで、安倍総理が世界を駆け巡って「わが国は世界に冠たる長寿国だ」などと吹聴してみても、庶民にとっては親の長寿も自分の長寿も素直に喜べない、そんな悲しい国になりつつあるようだ。(良穂)[2017/09/19]