茶飲み話[84]

 「われわれ労働組合は、もっと多くの学校ともっと少ない牢屋が欲しい。もっと多くの常識ともっと少ない犯罪を、そしてもっと多くの正義ともっと少ない復讐とが欲しい。労働組合が本当に欲しいものは、われわれの善性を育成するための、人間をもっと高尚なものにするための、女性をもっと美しくするための、子供たちをもっと幸せに、もっと明るくするための、もっと多くの機会を持つことである」▼1886年12月に結成されたアメリカ労働総同盟(AFL)の初代会長・サミュエル ゴンパースの演説の一節である。この中でゴンパースは、労働組合の目的は「労働者とその家族の幸せ」にあるのは当然だが、究極的には労働者の人格の向上と識見の啓発にあり、そのためには雇用を安定させ、将来に繋がる暮らしの安心が必要だと訴えているのである▼ちなみに、AFLの前身であるアメリカ・カナダ労組連盟は、AFLが結成される7カ月前の1886年5月、「1日8時間労働制」を求めて、鉄鋼労働者の町シカゴを中心に大規模なストライキを行っている。これがメーデーの起源になっていることは広く知られている▼翻っていま、わが国の雇用・労働の現場はどうか。期間限定社員のための「無期転換ルール」や派遣労働者の受け入れ期間の上限を3年と定めた改正労働者派遣法が本格始動したが、適用逃れのための「雇止め」や「派遣切り」が後を絶たず、非正規雇用労働者の数は高止まりしたままである。加えて、社会保障制度は年々先細りさせられ、生活保護受給者は増え続け、社会的貧困が泥流のように広がっている▼少子・高齢化が最大の要因だと為政者や一部の識者は言う。しかし、常に弱い労働者に犠牲を強いる彼らの本性は、アベノミクスの成果あって、昨年度末の企業の内部留保が446兆円を超えていたという一事を見ても明らかである。「われわれの善性を育成するための、人間をもっと高尚なものにするための・・・」と訴えた130年前のゴンパースの言葉が、やけに新鮮に聞こえる。(良穂)[2018/10/3]