茶飲み話[93]

働けど働けど 猶(なお)我が生活(くらし)楽にならざり じっと手を見る」-。石川啄木の歌集「一握の砂」の中の一作である。啄木と言えば中学校の国語の時間に読んだ「東海の小島の磯の白砂に 我泣き濡れて蟹と戯る」を思い浮かべるご仁も多いだろう。働けど―を詠んだころの啄木は、家族4人(妻、娘、父、母)のために病弱に鞭打って働き、26歳の若さでこの世を去っている▼広告代理店「電通」の社員だった高橋まつりさんが、24歳で自らの命を絶ったのは2015年の12月25日、クリスマスの日であった。東京大学文学部を卒業し電通に入社した彼女は、半年間の試用期間を終えて勇躍本採用となった。しかし、職場では人件費削減のため、どんなに働いても終わりのない仕事に追われる日々が続く▼彼女の日記には「生きているために働いているのか、働くために生きているのか・・・」「土日も出勤しなければならないことがまた決定し、本気で死んでしまいたい」「毎日次の日が来るのが怖くてねられない」「道歩いている時に死ぬのに適していそうな歩道橋を探しがちになっているのに気付いて・・・」と、日ごとに「死」という文字が多くなっていたという▼4月1日から「働き方関連法」が施行される。大企業では「36協定」でも超えてはならない罰則付きの時間外労働規制が施行する。月45時間・年360時間の原則に変わりはないものの、繁忙期などは毎月100時間・複数月平均80時間・年720時間に変更される。違反すれば6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられる▼また、月60時間を超える残業の割増賃金は、中小企業の場合も大企業と同じ50%に引き上げられる。こちらも罰則付きである。有給休暇も、10日以上付与される労働者に対しては毎年5日、時季を指定して休ませることが経営者に義務付けられる▼連合の提唱と運動で、毎年3月6日が「サブロク(36)の日」に登録・認定された。繁忙期だからといっても、月100時間の時間外労働は過労死ラインを超えていて、あまりにも酷過ぎる。労使協定でしっかり規制し無力化しなければ、労働組合の存在意義が問われることになろう。(良穂)[2019/2/19]