茶飲み話[75]

 北朝鮮の非核化をめぐって、アメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩委員長によるシンガポール会談が行われた。北朝鮮の非核化による朝鮮半島のみならず東アジア全体の平和と安定は、わが国にとっても極めて重要な問題である。会談結果についての評価は様々だが、新たな歴史の幕開けの一歩となることを期待したい。同時に日本と北朝鮮の間にはもう一つ、「日本人拉致」の問題が未解決のまま横たわっている▼これについて安倍首相は「虎の威」を借りて解決への糸口を見出そうと、トランプ詣(もうで)を繰り返してきた。米朝トップ会談の後「トランプ大統領の尽力で交渉への糸口はほぐれた。私自身が金委員長と直接会って解決したい」との意思を明らかにし、9月にロシアで開かれる国際会議の場での会談を模索しているというが目途は立っていない▼北朝鮮は長年、拉致への関与を否定してきた。しかし、2002年9月に平壌で行われた日朝首脳会談で、金正恩委員長の父親・金正日朝鮮労働党総書記が小泉純一郎首相に対し,「特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走って事件を起こした」として拉致への関与を認め、謝罪し、再発防止を約束した。そして、2004年5月に行われた2回目の会談で、5人の拉致被害者の帰還が実現した▼日本政府が認定している拉致被害者は17人。もちろん「特定失踪者」を含めると、こんな小さな数字ではない。しかし北朝鮮側はその後、このうち男性6人、女性7人の計13人については公式に認め、5人が日本に帰国しており、残り12人については横田めぐみさん、田口八重子さんなど「8人は死亡、4人は入国自体が確認できない」として「問題は解決済み」とする態度を崩していない▼子供のころ夜遊びが過ぎると「人さらいがくるぞ」と親に戒められたものだ。そんなおぞましいことが隣国の、しかも国家機関の手で実際に行われていたと思うと、いまさらながらに空恐ろしさを覚える。北朝鮮が普通の国として国際社会の仲間入りをしたいなら、忌まわしい「誘拐強盗」の過去をきっちりと清算することが先決だ。(良穂)[2018/6/18]