茶飲み話[71]
認知症高齢者が増え続け、それに起因する自動車運転事故をはじめ、近年さまざまな事故が多発している。2007年に愛知県大府市で、徘徊中の男性が列車にはねられて死亡した事故をめぐり、JR東海が家族に720万円の損害賠償を求めて争われた裁判があった▼一審の名古屋地裁は「目を離さず見守ることを怠った」と男性の妻の責任を認定。長男も「事実上の監督者で適切な措置を取らなかった」として、2人に原告側の請求通り720万円の損害賠償を命令。2審の名古屋高裁は「20年以上男性と別居しており、監督者に該当しない」として、長男への請求は棄却したものの、妻の責任は一審に続き認定し、359万円の支払いを命じた▼これに対して最高裁は2016年3月、「家族に賠償責任があるかどうかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだ」として、「賠償責任なし」の逆転判決を下した。しかし、同時に判決文には「法定の監督義務者に該当しない場合であっても、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、損害賠償義務を問うことができる」と記されている▼その後、認知症高齢者にかかる事件・事故の裁判等で、家族に対する監督責任を軽くしているのではないかとの被害者側の指摘もあるが、家族が過剰な賠償責任が負わされるという心配がなくなったわけではない。名古屋高裁の判断によって、むしろ増大したといえよう▼退職者連合はこうした事態を想定し、国に対し「認知症対策基本法」の制定を求めるとともに、認知症高齢者に起因する損害について「家族に過剰な賠償責任を負わせない方策」の検討を訴え続けている▼一方で、神戸市や神奈川県大和市などは、独自の救済制度作りを行っている。神戸市は納税者一人当たり年間400円増税し、それを原資にして2019年度中に発足させるという。神奈川県大和市は2017年から、自治体として公費で保険会社と契約し、最大3億円が支払われる保険に加入している▼2025年には認知症高齢者は700万人に達するという。一刻の猶予もならない。国がやらないのなら自分たちでやるしかない。地方自治体にこうした動きが広まることを期待する。(良穂)[2018/04/11]