茶飲み話[65]
『世界の賃上げに日本が取り残されている。大企業の賃上げ率は4年連続で2%を超えるが、主要7カ国で日本だけが2000年の賃金水準を下回る。(中略)このままではデフレ脱却の足取りも弱くなる』―。1月22日付日本経済新聞の一面トップ記事の書き出しである。普段の日経とはどこか調子の違う見出しに釣り込まれ、思わず読み進んだ▼『人手不足が続くなか、省人化投資による生産性向上の取り組みが相次いでいる。経営学のセオリーでは、従業員一人ひとりの生産性が上がれば、企業の収益力が高まり、対価としての賃金も上がる。だが、この生産性と賃上げの関係に異変が生じている。日銀によると、この5年間で日本の労働生産性は9%伸びた一方で、物価変動の影響を除いた実質賃金の上昇率は2%にとどまる。(中略)過去20年、デフレが続くなか、多くの企業が「人件費が増えると国際競争力が落ちる」と考え、賃上げを渋ってきた』と続く▼よくよく読んでみれば何のことはない。アベノミクスの失敗でデフレ脱却の実効が上がらず、3%の賃上げを経団連に要請している安倍政権への「提灯記事」ともいうべき内容だった。「多くの企業が人件費が増えると国際競争力が落ちると考え、賃上げを渋ってきた」とあるが、その元となったのは1995年、当時の日経連が発表した研究会報告「新時代の日本的経営」であり、それを歴代自民党政権が政策面で具現化してきたのである▼新時代の日本的経営のなかで日経連は、日本が国際競争に勝ち残っていくために、これからの雇用は「長期蓄積能力活用型」「高度専門能力活用型」「雇用柔軟型」に分けて行うべきだと述べている。言い換えれば、「これからの雇用は必要最低限の管理職要員と技術開発要員などのエリートを確保したら、その他はすべて首切り自在の労働者にすべきだ」し、それにあわせて賃金体系なども整えるべきだとしているのである▼以来、歴代自民党政権は雇用・労働法制を緩和・改悪し、被用者保険にも入れない「安上がりな労働者」を増やし続けてきた。同じ仕事、同じ責任を持たされながら、雇用形態によって賃金も雇用条件も大きく異なり、それが正当化されている今日の雇用・労働法制の改善がなければ、安倍政権が言う「働き方改革」は「仏作って魂入れず」、口先のことでしかない。(良穂)[2018/01/23]