茶飲み話[59]
思い起こせば7年前、トヨタ自動車の豊田彰男社長が大規模なリコール問題で米国議会下院に呼び出され「物づくりを実践するための最大のカギが人づくりであるという信念を持っている。従業員一人一人がどうすべきかを考え、改善を提案し繰り返す。それによってもっと良い車を作り出す。こうした価値観を共有し実践できる人材教育を進めてきた」と証言した▼その中で同氏は「(企業の)成長スピードが速すぎて人材教育が追つかなかった」「利益を重視しすぎる部分があったかもしれない」とも述べて、安全や品質を重視する姿勢がおろそかになっていたことを暗に認めている▼当時筆者は「これはトヨタ自動車だけに限ったことではない」として、日本を代表する製造業の多くが人件費削減のために長期雇用を減らし、短期雇用や派遣労働者依存を高めていることについて、系統的な教育や指導が困難になっていると指摘し、品質管理や技術の継承などへの悪影響を懸念し警鐘を鳴らしている▼いま世情を騒がせている大手自動車メーカーの無資格検査問題や、鉄鋼メーカーの底知れないほどの品質偽装などは、まさにその延長線上の問題である。それら企業にしてみれば、無意識のうちに「人の生命よりも会社の利益」が優先してのことだったのではなかっただろうか▼経済最優先の政治が続く中で、多くの職場で短期雇用者や派遣労働者が中心的な労働力として働らかされている。非正規といわれる彼らの多くは、年金や健康保険などの被用者保険には加入させてもらえず、会社の福祉施設さえ使わせてもらえない。そんな中で「人づくりだ」「価値観の共有だ」などといわれても、「なに言ってんだ」というのが率直な気持ちだろう▼それではエリートといわれる正社員はどうなのか。これまたコスト削減の度が過ぎて、健康障害や過労死といった問題が後を絶たない。愛社精神を持ちたくても持てない労働者、仕事に誇りを持ちたくても持てない雇用の仕組み。勤勉な労働者が積み上げてきたメードインジャパンへの信頼を損ねていることに、政治家も経営者も猛省すべきだ。(良穂)[2017/10/30]