茶飲み話[39]

 蟷螂(とうろう)の斧(おの)という。蟷螂とはカマキリのことで、「実力のないものがやたらと憤慨して悔しがり、いきり立つ」ことや、「自分の力量をかえりみず相手に立ち向かっていく」ことなどをいう。カマキリは進むことしか知らず、退くことを知らない。そんなことから、はかない抵抗を意味する言葉として使われることが多い▼いま国会は、自民党と公明党の連立政権で衆議院、参議院ともに圧倒的多数を占めている。加えて日本維新の会などが与党にすり寄り、憲法改正の発議要件である衆・参それぞれの3分の2以上の勢力を占めている。だから政府・与党、とりわけ自民党がその気になれば、民進党などがいくら「慎重審議」を求めても一顧だにしない。カジノ賭博合法化を含むIR法案を巡る一連の動きがその典型といえよう。その結果、関係委員会などでは数人の野党議員が委員長席を取り囲み、「強行採決反対!」などと叫んで乱闘まがいのパフォーマンスを繰り広げる▼蟷螂の斧も、古くは「蟷螂斧を以って降車にあたる」とか「蟷螂車轍に当たる」というように、勇気ある行動の喩(たとえ)として使われていたようだ。しかし今日の与野党の攻防を見る限り、そんな喩にはつながらない。新聞の見出しには「与野党厳しく対立」、「野党が激しく抵抗」などの活字が躍るが、その実態は力量の伴わない「はかない野党の抵抗」でしかなく、それによって国会審議の流れが変わることなどまったくないことを、ほとんどの国民が知っている▼いま安倍政権は、財源不足を理由に各種社会保障給付を限りなく圧縮し、アベノミクスに言う「安心につながる社会保障」どころか、「限りなく不安につながる社会保障」への道を突き進んでいる。強大な自公与党による政治の閉塞を打ち破り、流れを変えるには、蟷螂が力を合わせ、「車轍に当たる」の気概を持って選挙に勝つしかない。(良穂)[2016/12/12]