茶飲み話[64]

 昨年、静かなベストセラーになった「長生き地獄」という本(SB新書)。著者は松原惇子という人で、副題が「長生きが幸せの時代は終わった」である。はじめ書きの中で著者は「最近、長生きしたくないという声をよく聞くようになった。60代の人だけでなく、20代の人までが、本気で長生きを恐れているのには驚く。その理由は、仕事の不安、結婚して生活できるかの不安、年金の不安などで、長生きが幸せにつながらないからのようだ」と述べている▼自身が主宰するNPO法人で「あなたは長生きがしたいですか」というアンケート調査を行っている。回答者は50代から80代までの独居女性64人。そもそも長生きとは何歳ぐらいをイメージするかという問いには、90歳が28人、次いで80~85歳26人、95歳5人の順。それを踏まえて「あなたは長生きしたいですか」には、「長生きしたい」が9人、「したくない」が37人、「わからない」が18人だったという▼長生きしたくない理由としては、体力の低下、脳の老化、認知症、健康に自信がない、老人病院に入れられて恐ろしい、質の悪い長生きは辛い、自分のことができなくなってまで生きたくない、楽しいことがない、弱者にやさしくない社会、経済不安、1人が辛い・・・などなどである▼著者は「頼りにならない日本の福祉」についても指摘している。「65歳になり年金受給資格ができ、楽しみにしていた年金受給額を見て驚いた。満額貰えるはずの国民年金は削られて、悲しい数字が・・・。国を信じてはいけないと、昔友人から教わったのに、国を信じて国民年金を払い続けてきたわたしがバカだった」と述懐の弁▼そして「年金が減額になり、医療費がアップし、介護保険料が高くなり、サービス利用料も高くなる。入所条件は厳しくなり、施設利用料は高くなる。高齢者の身体は年々弱くなり、介護する人の手が足りなくなる。スマホ片手に平気で優先席に座っている今の若者たちが、将来高齢者の世話をする仕事に就くとはとても思えない。老人は汚いから捨てようと言い出しそうだ。こんなお先真っ暗な社会にしたのは誰? 政治家? 親? わたしたち国民か」と。首筋が寒くなるような厳しい指摘。一読の価値ある書である。(良穂)[2018/01/22]