集落営農でコウノトリと共生

(今回のお達者さん)
兵庫県農水省退職者の会
会長 水田喜彦さん

 
 人口減少と高齢化の下、全国いたるところで農業の衰退が目立ちます。一方、なんとか地域や農業を元気にしようと頑張っている皆さんも沢山います。兵庫県農水退会長の水田喜彦さんもそのお一人です。

Q.退職後、地元で集落営農組織を立ち上げられたとのこと
13年前に出身地の豊岡市観音寺に帰郷したのですが、子供の頃と風景が随分変わって寂れていました。加えて、大きな台風の被害に遭った後で村は瓦礫の山。農地も潰れていました。「これはイカン」と、台風被害からの復旧と集落営農組合立ち上げに取り組みました。

このままでは田畑がなくなる

Q.集落営農組合を立ち上げようと思った理由は?
当時、農業センサスを見たら、私のところは耕作放棄地が年率1.9%ずつ増えていました。50年経ったら田畑がほぼ無くなってしまう計算です。村の仲間に呼びかけ、農業研究会を発足させて、集落の稲作経営の現状分析と共同化による低コスト農業の勉強を進めました。この研究会を母体に、2007年、47戸の農家で観音寺営農組合を設立しました。
農政への不信感が大きかった
Q.随分スムースに進んだんですね
いやいや。農政に対する不信感が強くて、特に年寄りの皆さんが乗ってきませんでした。でも、集落営農が役に立つことを粘り強く訴え、説き伏せて、「エイヤー」と思い切って立ち上げました。

農水省の施策を活用

Q.組織を立ち上げるには結構費用がかかるのでは?
コンバインや乾燥機などを導入し、作業場なども建設しましたので総事業費は2千万円を超えました。これには、当時進められていた品目横断的経営安定対策への移行にかかる集落農業担い手緊急レベルアップ事業1千万円の補助を受けました。

事業で導入したコンバインを前に

多様な生き物が棲む自然環境が不可欠

Q.農法などに関しての特徴をお聞かせください
兵庫県、豊岡市、地元JAが一体となって「環境創造型農業」を推進していましたので、私たちも減農薬・減化学肥料で高付加価値の米づくりをめざしてきました。また、子どもたちと田んぼの生きものの観察などを通じ、「心は一つ、力を合わせ、譲り合い、楽しく、仲良く、むら繁盛」を合い言葉に「むら」に活気を取り戻す取り組みを進めてきました。
さらに、豊岡市はコウノトリと共生する水田づくり支援事業「コウノトリの舞ブランド化事業」を進めていましたので、この事業に参加しました。コウノトリは肉食で、1日の「食料」として500㌘必要です(50㌘のカエルだと10匹)。多様な生き物がたくさんいる自然環境が絶対に必要で、そうした環境で穫れるお米は誰もが求める「安心、安全なお米」となります。

餌を採りに舞い降りたコウノトリ


リーダーロウソク論

Q.これからの課題は?
次のリーダーづくりですね。現リーダーが長く務め過ぎると次世代のリーダーが育たず、途中で分解してしまったところもあります。自分のところもこれによく似てきたと感じています。
ある講演会で、「リーダーロウソク論」という話を聞きました。ロウソクは自分の身を削って他人に明かりを灯すというお話です。「自分もローソクにならなあかん」と10年間頑張ってきました。でも、ローソクは必ず燃え尽きます。燃え尽きる前にもう1本新しいローソクを立てなければなりません。でもこれが本当に難しい。
Q.水田さんの地域に限らず、どこでも同じ課題があるように感じますね
生産者も集落営農に預けたらそれでお終いとなりがちですので、そうではんく、リーダーの下に皆があつまって地域社会を守っていく、そんな社会性、継続性をもった営みとなればいいなと思っています。
今回のお話は、同じような悩みを抱えている全国各地の皆さんにとって、とても参考になると思います。ありがとうございました。
 

(報告)
農水退 事務局長 花村 靖
(「農水OBだより」2018/4/15第473号より転載)