「ジェンダー平等って何・・・」(2)~強者の論理~
(今回のお達者さん)
高知県退職者連合 副会長 山中 千枝子
(千斗枝グローバル教育研究所 代表)
「俺がやらんと言うたら、なんちゃあできん」
突然、会議室に大きな声が響いた。町の運営審議会での出来事である。参加していた全員が、びっくりしたように彼を見た。「会長は俺や。会長の俺がやらんと言うたらここじゃ、なんちゃあできん。したらいかんことがわからんがか」大きな声で彼はもう一度怒鳴った。部屋中の空気が凍り付いた。誰も、何も言わない。彼は、年配の女性を指さし、机を激しくたたいた。「知子(仮名)がおるき、俺はせんがよ」まるで、女がでしゃばるなとでも言っているように聞こえた。「会長の俺が、一緒にしとうないと言ゆたら、できんことくらいわからんがか」彼は全員をみまわしながら、威圧するように言った。みんなの視線が私に集中する。「そうかもしれんね。でもね、今までみんなで話し合ってきたことを系統付けてやろうと話し合いゆがよ」みんなが、私のほうを見てほっとしたように頷いた。彼は、もう一度その女性の方を指さして「お前が嫌いやき、反対しゆがよ。わからんか」と激しい口調で言った。「それはおかしいやろ。彼女がやろうとしていることは、住民のことを第一に考えてのこと。誰も反対してないでしょう。みんなで、今までやってきたことやろ」その私の声が終わらないうちに。「やめた。やめた。会長はせん」そういって彼は机を蹴って部屋を出ていった。引き戸が大きな音をたてて閉まった。
「やめてもらおう。本人がそういうき、そうしよう」副会長がいった。
年配の彼女は、黙ってみんなを見ていた。「ようこらえたね」隣に座っていた女性が言った。
数年前の出来事である。ここでは、経過は書かないが、彼女を中心に全員体制での町作りは今も続いている。やめた会長は、何かにつけじゃまをしようとするが、町民の意識は変わらない。今も、町内に笑顔と歓声は絶えない。
声の大きい男性の、支配的な言動がまかり通る世の中は、現在も変わっていない。いまだに、男性中心の強者の論理で社会が動いている。
高齢化と過疎化がどんどん進んでいる山間の町でのことだ。でも、都市部でも、同じようなことが起こっている。そして、「高齢者ばかりになるから、若者を・・・」の発想での施策は続いている。「若者がいないから、高齢者ばかりだから・・・」と。それがどうして問題になるのか。一見、若者への取り組みは強化されているように見えるが、本当にそれでいいのだろうか。若者と一緒に高齢者も着実に減少している。そんな中、古くからある性別役割分担意識、固定観念は。人々の意識の中に根強く残っている。日常をどう見ていくのか。どう改善していくのかが大きな課題となろう。自分たちの生活や地域での活動の見直しは急務となる。
「ジェンダー平等」を言われ、取り組みがはじまって数年が経過している。どの自治体も、企業や民間組織も、キャッチコピーのように「ジェンダー平等」を提起している。しかし、前述した会議の様子は作り話ではない。気が付くかつかないか、温度差はあっても、どの組織でもありることだろう。まずは、自分の周りから検証したい。「ジェンダー平等」への具体的な手立ては、数字あわせも大事だが、日常生活の見直しも重要な要因になるのではと考えている。