【熊本県】有機農業で豊かな地下水守る活動
「農林水産省退職者の会」の前田稲造さん[/caption]
環境保全型の農業めざす
「農林水産省退職者の会」の前田稲造さん(農水退熊本県退職者の会・前菊池支部長)は、1991年に熊本食糧事務所阿蘇支所を退職し、地元菊陽町で農業を始めました。始めるに際し、それまで自身が関心を抱いていた熊本市の豊かな地下水が都市化の進行、高齢化等で耕作放棄の拡大による保水力の減少が心配されたこと、加えて農薬や化学肥料等の使用などによる汚染が進んでいることもあり、環境保全型の農業をめざして有機農業に取り組むことにしました。
地元菊陽町の農産物販売所の地区代表として、高収入を期待した作目の選定や出荷調整等を行っていましたが、農水省勤務の経歴をかわれ、NPO熊本有機農業研究会のJAS認証農家選定検査員に任命され、農家選定や栽培指導に2年間あたりました。
阿蘇市へ移住を決断
そうした傍ら、JAの仲介で阿蘇市内牧に農地を確保し通勤による有機栽培を行っていましたが、2010年には内牧に住居を求めて移住、現在に至っています。
阿蘇市への移住は、○熊本の地下水は主に阿蘇地域に降り注いだ雨が約20年かかって地下に浸透し、地下水脈を流れ熊本にわき出していること、また○阿蘇地域は高冷地でもあり、自然条件は厳しいものの有機農業の推進に適していたことさらに○当時のJAの組合長が事務所の出身者で農地確保や営農開始に協力的であったことなどが、決断を後ろ押ししたといいます。
現在の主な栽培品目は、有機栽培によるショウガ、里芋、ネギ、そら豆、おくら、チンゲンサイなどを年間通して栽培し、阿蘇市の道の駅や九州有機の里などに出荷しています。
地域で中心的な存在となる
有機農業は雑草や病虫害との闘いです。このため、有機農業研究会での研修や、石灰窒素の使用、こめ糠を混ぜた発酵堆肥など、工夫を加えながら安心・安全の農産物栽培に努めています。
阿蘇市内牧への移住後は、阿蘇地域の有機農業の普及・発展を目指し、地域の行事への積極的な出席で地域にとけ込むと同時に、道の駅出荷組合の会合や研修会への参加等で技術を積み、阿蘇市の農産物品評会でも上位入賞するなど、今では地域でも、有機農業でも中心的な役割を果たしています。
地域に根を張り、仲間づくりめざす
前田さんは、「有機農業は自然や体に優しいものの、栽培する側にとっては雑草や病虫害との闘いで、一気に規模拡大や生産者の拡大ができない面があるが、地道に地域に根を張り仲間作りを進め、安全・安心な農作物を提供するとともに、熊本の豊かな地下水の保全へも貢献したい」と話しています。
<報告者>
農水退・熊本県退職者の会
事務局長 椎葉和男
「農水OBだより」第427号より