想像を超える高齢化日本!待ったなしの介護問題 ~2014年介護保険自治体実態調査を終えて~
東京高退連では、毎年7月から8月にかけて「介護保険自治体実態調査」を行い、9月にまとめ、10月の定期総会で報告する取り組みを行っています。今年調査結果を報告します。
1.2014年介護保険自治体実態調査のポイント
2000年に「個人・家庭による介護から社会による介護」を目的として発足した介護保険制度は、本年が第5期の最終年となります。そこで今年度の調査にあたっては、次の3点をポイントにしました。
(1)昨年までの9自治体に荒川区を加え10自治体で実施(東京都総人口の1/4をカバー)
(2)介護保険発足初年度の2000(平成12)年度から2013(平成25)年度までの集計と比較
(3)消費増税の延長線上の社会保障制度改革国民会議報告(介護保険部会審議)との関連
2.調査の結果
(1)発足から現在までの介護保険制度14年間の基礎データ【集計・比較】(資料 1)
(2)総人口、高齢者数、介護保険に関わる【基礎データ】(資料2、資料3)
(3)「社会保障国民会議」の議論に関連(資料4)
3.介護保険制度14年間の基礎データについて
最大の問題は少子高齢化・人口減少社会への突入、介護を必要とする人も急増です。
【集計・比較】(資料1)
日本の総人口と予測 | 東京都の人口と予測 | |
2000年 | 1億2705万2000人(―) | 1216万3000人(―) |
2013年 | 1億2713万6000人(100.1%) | 1330万人(109.3%) |
2025年 | 1億1927万人 ( 93.9%) | 1304万7000人(107.3%) |
2035年 | 1億1067万9000人( 87.1%) | 1269万6000人(104.4%) |
(注)2025年は、団塊の世代が後期高齢者となる年度
2000年度 | 2013年度 | 増加率 | |
1)総人口 | 282万9578人 | 312万969人 | (110.3%) |
2)65歳以上 | 46万6972人 | 67万1729人 | (143.9%) |
<同高齢化率> | <16.5%> | <21.5%> | +5.0% |
3)75歳以上 | 18万6313人 | 31万1905人 | (167.4%) |
<同高齢化率> | < 6.6%> | <10.0%> | +3.4% |
4)介護認定者 | 5万5119人 | 11万8839人 | (207.7%) |
<対;総人口率> | < 1.9%> | < 3.8%> | +1.9% |
<対;高齢者率> | <11.8%> | <17.7%> | +5.9% |
(2)介護保険サービス給付費や介護保険料(第1号被保険者基準年額)も急増しています。
【基礎データ】(資料3)
2000年度 | 2013年度 | 増加率 | ||
①保険給付額A | 50,319百万円 | 146,918百万円 | (288.6%) | (三鷹・西東京市を除く8自治体分) |
②保険給付額B | 101,146百万円 | 168,797百万円 | (166.9%) | (全対象自治体の10自治体分) |
③介護保険料 | 37,825円 | 59,560円 | (157.5%) |
(資料4)
4.厚生労働省「社会保障制度改革国民会議」介護保険部会審議に関連して
介護保険部会では、『① 訪問・通所介護サービスを市区町村事業に移管 ② 特別養護老人ホームなどの施設入所者を要介護3以上に限定』などについて審議したと報じられました。
調査では、介護保険部会の審議内容をふまえ、以下の項目について設問しました。
(ア) 要支援1・2認定者が利用する介護予防サービスを国の事業から市区町村事業に移管
(イ) 在宅医療・介護サービスが必要な人に対する「定期巡回・随時対応サービス」の実態
(ウ) 特別養護老人ホームなどの介護施設への入所希望者に入所基準枠の導入
(エ) 第6期(2015年~2017年)介護保険財政の問題点や、第6期介護保険料の見通し
(オ) 介護保険部会での審議内容で保険制度としての介護保険の精神が維持されるか
自治体からの回答や見解は、審議内容(ガイドラインなど)が明らかでないなどの理由で、具体性を欠いた回答や見解が比較的多く見受けられました。
一方、住民への信頼を保つため従来のサービス基準を維持しようとする姿勢が見られた自治体もありました。以下、特徴的な点を簡記します。
①訪問・通所介護予防サービス~検討中の回答が多数でした。従来のサービス基準を維持していきたい姿勢を示した自治体もありましたが、移管に伴う財源の裏付けは明確になりませんでした。自治体の財政力格差でサービス水準が左右すれば、大きな問題となります。
②定期巡回・随時対応サービス~施設介護より在宅介護を希望する人の割合が高いのに、期待に応えてない実施状況と判断できます。原因には住民に対する周知度不足や、事業者の採算見込み・労働力の確保などに問題があると考えられます。
③施設入所基準の導入~全国で約52万人(東京で約4.5万人)が特養などへの施設入所を待機しており、要介護3以上の認定者に限定する入所基準の導入については、要介護2以下の認定であっても特例措置による入所を検討している自治体もありました。
④第6期介護保険財政と介護保険料~2000年度介護給付サービス費3.6兆円が、2014年度には10兆円突破すると予測され,調査でも初年度比226.9%~332.9%と急増しています。
第5期は自治体の基金取崩しや都の交付金を繰入れましたが、第6期では基金取崩しや交付金の繰入れは厳しい状況であり、要支援者の介護予防に必要な財源確保が困難となることから、15年間続いてきた介護サービスの給付が骨抜きになる事態も予測されます。
第6期介護保険料の引上げも必至です。介護保険料は後期高齢者医療保険料の引上げと重なり、年金支給額減額や消費者物価が高騰などもあって生活を圧迫させています。
⑤介護保険制度としての「保険」の精神が維持されるか~東京23区特別区長会や市長会は厚生労働大臣に対し、介護保険部会の審議では介護保険制度の「保険」の精神を維持するよう意見書を提出していました。調査に対する自治体の回答は、国会での議論経過や介護保険部会の審議で一定の方向性が示されたこともあってか、当初の意見書からは後退していると受け止めざるを得ませんでした。
5.2014年介護保険自治体実態調査を終えて
「2014年自治体介護保険実態調査」は終了しました。調査結果を分析しましたが想像以上に問題点が多く、複雑であるため方向性をだすことは至難の業と実感しました。
問題は総人口の伸び率(調査対象自治体で110.3%)に対し、65歳以上高齢者数 143.9%、75歳以上高齢者数167.4%、介護認定者数207.7%、保険給付費288.6%、介護保険料157.5%と、介護保険に関連する多くのデータが人口の伸びを大きく上回る実態にあることです。 ※(資料1)を参照
「個人・家庭による介護から社会による介護」が介護保険発足の目的ですが、介護サービス受給者を支える人口の減少、介護サービス給付に必要な財源の確保が厳しく問われています。
何億円もの入居金と月数十万円の費用負担で、「介護サービス付き高齢者住宅」で老後を過ごす人がいる一方で、独居老人、老老介護、介護退職、介護退学、消滅村落、消滅自治体、さらには介護にまつわる犯罪の発生など、社会全体が問われている実態に直面しています。
人口問題は「子育て政策の充実だ。財源問題は、大企業偏重の経済政策の中止だ。軍事費や公共事業費の削減だ」と唱えるだけでは、問題の解決にならないと考えます。
課題を列挙してみました。難問克服への道に向けた積極的な議論を期待しています。
①介護を必要とする人と要介護者を支える人のバランスがとれた人口政策の確立
<少子高齢化社会と人口減少社会へのアプローチ>
②高齢者=1号被保険者(65歳以上)と、現役=2号被保険者(40歳~65歳未満)との共生
<負担割合 国・都道府県・市区町村 50%、1号被保険者 21%、2号被保険者29%>
③元気な高齢者は地域の介護施策に積極的に参加する意欲の発掘と制度の確立
④名目から実効のある介護休暇制度にするための国・地方公共団体、企業の姿勢の転換
⑤介護予防サービスの市区町村事業への移管で懸念される自治体間格差の解消
⑥費用負担に耐えられず、介護給付サービス利用が困難となる生活弱者問題
⑦国・基礎自治体における介護方針の策定に高齢者が参画できる場の保障
⑧介護で苦しまず、安心して老後を過ごせる制度確立に向けた国・地方の政治勢力結集
(文責;介護保険対策委員会 来田 弘)
その他の活動報告
東京都に要請する福島会長
①要請内容
○介護保険制度について
○シルバーパスについて
②東京高退連参加者 33人
全体学習会
○テーマ「少子高齢社会日本~新しい高齢者像とその暮らしを考える~」
○参加 115人
役員学習会
○内容 介護調査実施事前研修
○参加 23人
街頭で訴える福島恒男会長
自治体要請
全体学習会
○内容 「知って安心 認知症」
○参加 123人